スーツにドレープはあるのか?

スーツにおけるドレープってなんなの?

「ドレープが美しいスーツ」って、たまに聞くけど正直よくわからない。ドレープってなに?ってなる。

辞書的な意味合いだと「たわみやひだ」。スーツにそんなのあったっけ…?ってなる。

気になって調べてみたら思った以上に奥深い世界だった。最後まで読むとスーツを見る目が変わるかも。

カーテンとスカートで考える「ドレープ」の定義

まず、ドレープって何?って話から。

これは「布にできる自然なたわみ」とか「ひだ」のこと。カーテンがわかりやすい。

レールの長さの1.5〜2倍くらいの布使うと自然と波打つ、それがドレープ。

 

逆にピッタリサイズのロールスクリーンとかは、まったく波打たない。ドレープはない。

 

スカートなんかも同じ。布をたっぷり使ったフレアスカートにはドレープがあるし、タイトスカートにはない。そういう話。

ここまでで「布が余る=ドレープが生まれる」という構造がわかってきたと思う。

スーツにドレープって本当にあるの?

ここで「じゃあスーツにはドレープってあるのか?」って話になる。

毎日スーツ見るけれども、カーテンみたいに布が波打ってるな〜とか思ったこと、たっぷりと布が使われているな~って思ったことは正直ない。

でも、80年代のジョルジオ・アルマーニのスーツとか見ると、「あ、これドレープってやつかも…」と思える。動きに合わせて布がふわっと揺れる・しなる感じ。

引用元 https://thesecondbutton.com/armani-look/

 

桑田佳祐が『スキップ・ビート』(1986)のPVで着てたスーツとかも、まさにそんな雰囲気だった。

80年代のスーツには確かに“たわみ”ドレープがあった。

だから、80年代のスーツの形容に「ドレープ」が使われるのは分かる、けど現代のスーツにもよく「ドレープ」という言葉が使われる。

そのドレープって一体なにを指している?

スーツの生地自体にドレープ性があるのは分かる。滑らかだからゆとりがあるとひだが生まれるし、生地が持つ光沢感も相まってひだ・たわみが認識しやすい。

これで古代ローマの服とか作ったらもう半端なくドレープって感じがするのは分かる。

 

けれども、スーツという形状にドレープはあるの??

スーツの“ドレープ元祖”はイングリッシュドレープだった

で、ちゃんと調べていくと出てきたのが「イングリッシュドレープ」という言葉。ざっくり言うと、肩とか胸に余裕のある型紙。

これがいわば“スーツにおけるドレープ”の始まりみたいな存在のよう(私調べ)。

1920年代にフレデリック・ショルツというテーラーが誕生させたと伝わっている。“ロンドンカット”とも呼ばれたり、日本には“ドレイプ型”として第二次大戦前に伝わってきている。

要は、構造的に布をたっぷり使って、身体にぴったりフィットさせず、ゆとりで立体感・奥行き感を作ってる。

引用元 https://www.gentlemansgazette.com/drape-cut/

 

↑の画像なんかを見ると非常にわかりやすいと思う。

スーツの胸・脇あたりに注目してほしい。たくさん生地が使われてる(カーテンまでとは言わないけど、ロールスクリーンよりはね)。

たっぷりの布は横方向には広がらずに前方に出てくる。この”たわみ”こそが「イングリッシュドレープ」のドレープ!

 

正直いままでの話の流れからすると、ドレープと呼ぶには心もとないくらいなんだけど、時系列でみてみると、、、

イングリッシュドレープが生まれる前、1910年代以前のスーツはもう体にピタッとフィットするスタイルで、たわみとかひだなど、ドレープは基本存在しない。

引用元:https://jp.pinterest.com/pin/397794579593973897/

 

↑くらいのピタッとしたスーツが

↓これくらいになるんだから、変化は劇的。スーツのスタイルに「ドレープ」を使う気持ちもわかる。

引用元 https://uk.pinterest.com/pin/109775309662725049/

 

Gentleman’s Gazzeteには、従来のスーツとゆとり感があまりにも違うため、一般ユーザーはそれに戸惑い、浸透するまでに時間を要したという1935年に出版された雑誌の引用もあった。

実際に1930年代に入ってくると、しっかりとこのドレープがあるスーツが増えてくる模様。

 

現代のスーツにドレープはあるべきなのか

—ここまで書いたのが2018年—

当時は筋肉つけて、スーツはその筋肉をまとうテクスチャだよね!って価値観だったから、正直ドレープなんてどうだってよかった。

逆にドレープがあったら、せっかくに肉体美が強調されないじゃん?くらいの考えでさえあった気がする。

しかし、スーツのドレープという概念が頭にインプットされたことで、2018年以降、スーツを見る目がアップデートされていた模様。

その状態時間の経過とともに価値観が変わり、今ではドレープのあるスーツが良いスーツの条件とまで考えるに至っている。

胸周りのドレープがあるスーツは、いわゆるインスタ映えするような、フォトジェニックな感じはない。一見普通だけれども、わかる人が見たら良いものだとわかる、そんな塩梅だと思っている。

 

見た目に現れる“ドレープ”とは

とはいえ、スーツのドレープってめちゃくちゃ控えめ。

カーテンみたいにわかりやすい“波”が出るわけじゃなくて、ほんの“ふくらみ”とか“奥行き”レベル。

スマホの画像じゃまずわからない。実物を近くで見て、さらに動いている姿を見て、ようやく「あ、これがドレープか」ってなる。

でも、それがあるかないかで印象がぜんぜん違う。ほんの少しの立体感が、着姿に深みを与えてくれる。

 

さまざまなスーツを見ていく中で、ドレープにも多い少ないがある。簡単に3つに分けてみた。

ドレープなし

ドレープはゆとりある分量の布が作り出す縦方向のひだ・たわみなので、ゆとりが足りないことで生じる横方向の引っ張りジワみたいなものはドレープとは言わない。(と思っている)

そういうのをドレープなしと分類してみた。

 

 

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これなんかはぱっと見普通。

けど、よく見ると胸のゆとりがないから胸が開き始めていて横のしわが出始めている。

ちょっとでも腕を動かすとジャケットの胸がより開いてきそう。

布で体をほぼほぼ覆えて入るが、ドレープができるほどではない。

カーテンではなくてロールスクリーン。これはドレープなしかと思う。

 

 

これも言わずもがな、ドレープなし。胸が開ききっちゃってる。

2025年においてはほぼ見ないサイズ感。

 

 

格闘家コナー・マクレガーのTHE格闘家という感じのスーツ。

かろうじて胸は開いていないが、動くと、胸はすぐ開いてしまうし、袖にゆとりがなさすぎる。

 

リーン&クリーン

海外のサイトでは比較的細身ながら胸にドレープがあるスーツをリーン&クリーンと表現されることが多い。

 

 

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まさに、こういった細身のスーツ。

肩幅は結構内側だしウエストもタイトでボタン部分にややしわが寄るくらい。

でも脇・胸のところに布のゆとりがあり、しっかりとひだ・たわみができて、前方に膨らみがあるのが分かる。

そうそう、この感じ!!これが胸のドレープ!

この胸のドレープがあることで、タイト目ながら着崩れづらさが担保されるし、立体感も出てくる。

分かる人が来ているタイト目なスーツという感じだ。

 

ドレープスーツ

たっぷり布を使って“たわみ”がしっかりあるカテゴリ。勝手にドレープスーツと名付けた。

クラシックな雰囲気があるものや、かなりエレガントな雰囲気があるものが多い。個人的には非常に格好良いと思っている。

正直ビジネスには格好良すぎるかもしれない。

引用元 https://putthison.com/lean-and-clean-vs-drape-and-shape/

ロンドンが舞台の映画「ファントムスレッド」の主人公(1950年代のデザイナー)のスーツ姿。

こんもりとした胸のボリューム感!

肩幅も広めでここは時代性を感じるが、逆に今っぽいサイジングといえる。かも。

 

このリングヂャケット縫製のスーツもドレープもものすごいドレープ!!

脇下部分だけでなくて、それより上、もうほぼほぼ肩の部分から見頃が前方にぐっと出てきてる。

肩幅は広くないからオーバーサイズの印象もないけれども、しっかりと見頃部分に生地のゆとりがあり、たわみが生まれている。

胸だけでなくて袖付けのやわらかい感じも相まって、非常にエレガント。これはもうめちゃくちゃ格好良い。

 

コラム 国による胸のドレープ(芯材)の違い

ドレープスーツの1枚目はイギリス。

2枚目はイタリア(イタリア的な縫製を得意とするリングヂャケット謹製)

イギリスのスーツはしっかりした芯材まず用意して、その上にスーツ生地を貼っていくようなイメージ。

少し柔らかめの下敷きで立体を作って、その上に布を貼る感じ。だからパリッとする。

上のファントムスレッドの画像や、↓こんな感じ。パリッとした感じ伝わるかな。

こんもり感と言い換えてもいいかも。

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一方イタリアは、柔らかい芯材を使って「素材を活かす」タイプ。芯で押さえつけず、布の質感や落ち感がそのまま出る。ナチュラル。

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これは芯材が薄いというかほぼ無いぐらい。イギリスと比べて前方への押し出しが無く、 布のゆとりは全てひだとして表れている。

実際はこんなにもイギリス・イタリア・というステレオタイプ的な違いは生まれないことがほとんど。

この間には無限のバリエーションはあるだろうが、 全体の方向性としてはこんな感じ。

 

 

ちょうどよいドレープ

上のドレープスーツはめちゃ格好良いが、一般的にはオーバーサイズに感じられたり、しわしわに感じられたりと、だらしなく見えてしまうんじゃないかと思う。

そんなわけで、リーン&クリーンとドレープスーツの間、ちょうどよいドレープを見ていく。

 

 

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フィレンツェの名門テーラー「Liverano & Liverano」でクリエイティブディレクターを務める大崎貴弘氏のスーツもドレープがしっかりとある。

適度に体にフィットしたサイズ感としっかりとした胸のドレープが非常にきれい。けっこうクリーンめな印象。

 

 

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雑誌「LAKE」日本版の編集長松尾氏の仮縫い時の姿。

艶のきれいな生地もあいまって、胸のドレープのボリューム感が際立つ。

 

 

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よく雑誌に登場するデイヴィッドさん。

欧米骨格で分厚い胸板。を、さらによりたくさんの布で覆うことで適度なドレープが生まれている。

 

 

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デイヴィッドさんその2.

控えめなスーツに胸のドレープでめちゃくちゃ上品。

ナポリの伝統的な仕立て屋、Sartoria Solitoの仕立て。

 

 

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フィレンツェでテーラーを営むトンマーゾ・カポッツォーリ(Tommaso Capozzoli)氏。

腕を動かしても乱れない胸元(袖の作り・袖付けによる面も大きい)

ドレープについての記事ではあるものの、ドレープ関係なく、ただただ格好いいね。

 

 

 

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ビームスFの西口氏。

いろんな着こなしがあるけれども、やっぱり胸のドレープをしっかりと取っている。

 

紹介したい画像は星の数ほどあるけれども、長くなりすぎてもあれなのでこの辺で。。。

 

 

ドレープに気づくと、スーツの見方が変わる

スーツにもドレープはあった。

80年代アルマーニみたいなスーツだけではなく、タイト目なスーツにだってある。

ドレープを知ると、スーツの見方が一段深くなる。画像じゃ伝わりずらい奥行きに、ちゃんと目が向くようになる。

スーツがただの「ビジネス服」じゃなく、100年以上も着続けられている大人の男にふさわしい奥行きを持った服だってわかった。

※この記事では説明できていない、袖付けのことについてもおいおい記事にしていく予定。